夢郷さんの書 (高源院蔵『釈迦成道図』から)
 
この写真では見にくいですが、いちばん右の上部に賛があります。
 
賛は変体仮名で次の『正法御和讃』が書かれています。
 
齋藤政裕師が襖の賛を変体かなで筆写し変体仮名の解説をしたもの(クリックしてご覧ください)
変体仮名の元字とその典拠が示されています
 
夢郷さんが用いた変体仮名の元字                正法御和讃の通常の文字

 『正法御和讃』(しょうぼうごわさん)について
「……ここに書かれているのは曹洞宗にとって大変に重要な一文で、曹洞宗の「宗歌」として、また御詠歌の「正法御和讃」の歌詞として、現在でも大事な重要な位置を持っている歌詞です。当時、夢郷さんがこれをここに書いたこと自体、不思議な感じがしています。逆に言えば、それだけ達観した境地を夢郷さんがお持ちだったと言うことが出来ます。驚くべきことだと思います。……」
(高源院・齋藤政裕ご住職のお手紙から)
 同封されていた『正法御和讃』の解説によれば、道元禅師の和歌「荒磯の……」を本歌として、昭和30(1955)年に大内青巒居士(仙台市出身で明治期の仏教界に大きな影響を与えた仏教学者、啓蒙思想家)が作詞したもので曹洞宗の宗歌(しゅうか)になっているとあります。
 歌の内容は、釈迦の教えが歴代の祖師を通じて正しく伝わってきた様子が描かれています。ちなみにネットで『正法御和讃』を検索すると、詳しい内容の解説はもちろん、この宗歌を聴くことが出来ます。
 それにしても高源院が修築されたのが昭和30年代の前半だったのを考えれば、夢郷さんがよくこの歌を知っていたなあと管理人も不思議です。
 また、絵を描く夢郷さんは知っていましたが、変体仮名を駆使する書家とは知りませんでした。やはり相当な教養人だったのだなあと、改めて思いました。
 なお、齋藤政裕ご住職は、専門的に「かな書道」を学んでいるそうで、東北では権威のある「河北書道展」のかなの部で数度入選しているそうです。
 上の夢郷さんの書の詳細な文字解説も届きましたので、いずれこのページで参照してみたいと思います。      
 (2016.12.25)

 上の記事から満1年以上もたってしまいましたが、ようやく齋藤政裕師の筆で再現していただいた夢郷さんの「正法御和讃」をアップすることができました。その時の政裕師のお手紙には、夢郷さんの書について
「その書たるや正に専門家のカナ書道家が書いたと思われるような、専門的な書体と連綿、そして十八個もの「変体ガナ」を駆使しての技量と知識は、私としてはまさに驚異的です。どんな人と交わってこのような知識を身に着けたのか興味は尽きないところです」とありました。
 長面の松原にこういう教養人がいたことに政裕師は驚いていますが、管理人にとっても知れば知るほど驚くことばかりでした。
(2018.1.10)